ハノイのクラッチバッグ 全体
The Story
買付の話
「もう作れる人が少ない」
ハノイ旧市街、間口一間の仕立て屋。ミシンは一台きりで、店主のおばあさんは注文がないときは店先で麺をすすっていた。
棚の奥から出てきたのは、北の高地から届いたという藍染めの古布。黒モンの女性が嫁入りのために刺したもので、細かい十字の刺繍がびっしりと布を埋めている。「もう作れる人が少ない」と彼女は言った。
その布の一番良いところだけを使って、このクラッチを仕立ててもらった。針目をよく見てほしい。機械では出ない、わずかな揺らぎがある。それは手が布の上を歩いた足跡だ。
小説『君に聞かせる世界の話』第八巻・第二章で、旧市街の路地を歩き回る場面がある。あの路地の突き当たりに、この店はまだある。
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